
ソウルの芸術団を舞台に、“母を失くした女子高生”と“完璧主義の先生”の不思議な共同生活による心の交流を描いた感動作『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』が、いよいよ4月10日より新宿ピカデリーほか全国公開されます。
本作は、韓国映画で初めて、第74回ベルリン国際映画祭「Generation Kplus」部門の最優秀作品賞にあたる〈クリスタル・ベア賞〉を受賞。本作が長編監督デビュー作となり、2025年青龍映画賞で新人監督賞を受賞した、キム・へヨン監督にたっぷりお話をお伺いしました。

「“大丈夫“を3回繰り返すことで、“大丈夫だよ“と声をかける雰囲気も伝わってほしい」
ーー『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』の物語の舞台として韓国伝統舞踊の芸術団を選んだのは、どのようなきっかけや経緯があったのでしょうか。
芸術団が美しい公演を披露するまでには、その表側と裏側に本当に熾烈な準備の過程があります。映画は何度も撮り直しができますが、ステージに立つとき、その瞬間は一度きりで、もうやり直しが効かないわけですよね。そんな特性があることから、人物が抱く情熱や欲望、嫉妬、挫折など、様々な感情を表現できるのではないかと考え、芸術団を物語の舞台に設定しました。
その中でも韓国伝統舞踊を選んだのは、固有のリズム感、指先から足先まで丹念に稽古し、丁寧に表現しなければならない舞踊の様式、そして舞踊そのものの魅力に強く惹かれ、それらを表現してみたいと思ったからです。また、韓国伝統舞踊は踊りだけでなく、その色使いや、演奏に加えてオブジェともなる太鼓など、目を楽しませてくれるさまざまな要素もたくさんあるので、ぜひこれを撮りたいと思いました。
ーー実在する芸術団体のご協力もあったのでしょうか。
私たちは実際の芸術団を取材し、そこで実際の空間や練習風景などを観察しました。練習を終えた後、団員の学生たちはどんなふうに過ごすのか。水を飲みに行くのか、あるいは友達同士で座っておしゃべりをしているのか。そうした自然な瞬間を観察していきました。

ーー映画のタイトル『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』は、“大丈夫“が1つではなく、3つ並んでいるところに監督の強いメッセージを感じますが、どのような思いを込めていますか?
生徒たちは芸術団の中で競争を強いられる状況に置かれています。その競争は、誰かにとっては大きなストレスになることもあれば、誰かにとっては成長の助けとなる前向きな側面もあると思うので、私は競争の全てが悪いとは思っていません。“大丈夫“を3回繰り返した理由としては、繰り返しが生み出す力や、繰り返しによって与えられる力があると思ったのと、いろいろな人に「大丈夫だよ」と声をかける雰囲気も伝わってほしいなと思ったからです。
本編の冒頭で作品のタイトル文字(ハングル)が登場するときに、最初はクエスチョンマーク、次に読点、最後にビックリマークが付いているんです。それは、最初に「大丈夫?」と問いかけて、次に「大丈夫、」と励まし、最後の「大丈夫!」は確信となる大丈夫。そんなふうに様々な意味を込めたいと思いました。
これは初めてお話ししますが、タイトル文字が最初に登場するとき、“大丈夫“の文字が少しびよーんと動くんです。それは、“うん、大丈夫だ“と起き上がる様子を表現しようと考えて、そのような形にしました。“よいしょ! えいや!“と、だるまのように起き上がる動きを表現しているんです。
ーー先ほど、団員たちを観察されたとお話しくださいましたが、会話にもリアリティを感じましたし、主人公・イニョンがコンビニのアルバイト先でお弁当の賞味期限が切れる直前を狙っているのも微笑ましかったです。こうしたエピソードは、どのように着想されているのでしょうか。
私は20代初めの頃、本当にいろいろなアルバイトをしていました。その中に、コンビニでのアルバイト経験があったんです。そこでは有効期限が切れてすぐのお弁当は食べられるようにしてくれていたので、実際に私自身がそのお弁当をずっと待ち望んでいたんです。イニョンと同じように、「私が好きなお弁当が最後まで残っていますように」と祈るような気持ちで。
シナリオを書くときには、実際の自分の体験に基づくこともありますが、それ以上に、イニョンだったらどんな行動をするのかな、このキャラクターだったらどんな行動をしてどんなことを言うのかな、ということをたくさん想像します。そうして想像しているうちに、自分の子ども時代の体験が反映されることもあると思います。

ーーソン・ソックさんが演じた薬剤師が、ソラ先生との会話の中で言った「去る人はその日が別れで、残された人は受け入れる日までが別れだ」というセリフも、とても印象に残りました。
実は私が考える理想的な大人像を、この薬剤師というキャラクターに設定しています。私が望む理想の大人とは、相手に何かを強要せず、子供の目線で待ち、じっと見守りつつ、相手を笑わせることもできる存在です。その理想の大人像である薬剤師を通して、このセリフを言ってほしかったんです。
ーー本当に素敵なキャラクターでした。
ソン・ソックさんの劇中のパーマヘアは実はウィッグだったんですよ。
ーー全く気づきませんでした!
雰囲気が違いますよね。もともとこの作品を撮る前は少し短髪だったんですね。でも、この薬剤師は少し茶目っ気があっていたずらっぽいキャラクターだったので、本人と相談しながらいろいろなウィッグを、あれかな、これかな、と試してみて決めたんです。

「失敗しても大丈夫、不十分でも未熟でも大丈夫、完璧でなくても大丈夫!」
ーーイニョンとナリが喧嘩を通してお互いを理解していくシーンでは、その喧嘩が容赦ない体当たりのもので、女子同士では珍しい描かれ方だと感じました。なぜこのような描写にされたのでしょうか。
とにかく幼稚に喧嘩してほしいと思いました。彼女たちは互いに自分の心や気持ちすら正確にわかっていない状態ですよね。相手の気持ちや、相手が何を望んでいるのかもわかっていなかったでしょうし、疑問符の多い関係だったと思います。私たちは友達なのか、ライバルなのか、あるいは、単に芸術団で一緒に活動する仲間なのか。何か1つの言葉では括ることのできない関係だったと思います。
でも、見ている私たちにとっては、「2人は友達になればいいのに」と願わずにはいられない、そんな関係だと思うんです。だからこそ、彼女たちの中に溜まっているストレスが解消された後に、親しくなってくれたらいいなと思いました。そのためにも、この喧嘩はできる限り原始的で、少し幼稚なものにしたかったんです。

ーーイニョンを演じたイ・レさんの演技が素晴らしかったです。今回の撮影を通して、監督が改めて感じたイ・レさんの魅力を教えてください。
私の考えでは、イ・レさんは今後、韓国映画を引っ張っていく最高の俳優になるのではないかと思います。実際に韓国では、多くの映画関係者が「イ・レさんと一緒に仕事したい」と、夢見ている、そんな俳優でもあるんですね。この映画の撮影をしていた時期は、彼女はまだ子役という立ち位置でした。当初は「まだ年が若いから」と思っていたのですが、実際にお会いして話し、撮影してみると、彼女はもはや子役の枠を超えて、一人の俳優として存在していました。実際、撮影でもNGが最も少ない俳優でした。そして、どんな俳優と共演をするときでも、自分の役どころを完璧にこなし、表現します。なので、この現場を通して、以前にも増して信頼がとても高まりました。

ーーこの映画は多くの方々を励ましたり元気づけたりしていると思いますが、韓国で公開された時の観客の反応や声の中で、特に監督の心に残っているものはありますか?
すごく良かったのは、イニョンが笑顔になっているのを見て、自分もつられて笑顔になった、と言ってくださる反応です。もちろん、映画が伝えようとしているメッセージも重要ですが、その映画の持つ雰囲気そのものを受け止めてくださっているのだなと思えて、とても嬉しかったです。
ーークリスタル・ベア賞を受賞したベルリン国際映画祭での上映も含め、意外だと感じた反応はありましたか?
大体は似通っていたのですが、思っていた以上に、ソラやナリのように完璧を追い求めるあまりストレスを受けてしまうキャラクターに対する関心が高かったんですね。やはりどの国でも、心理的な圧迫やストレスをみんな受けているんだと感じました。
ナリというキャラクターは、リトル・ソラとして設定しています。でも幸いなことに、ナリはソラになる前にイニョンと出会うことで、変化するキャラクターになっています。
ーーいよいよ日本公開を迎えますが、これから本作をご覧になる読者へメッセージをお願いします。
まず、この映画が伝えたいのは「失敗しても大丈夫、不十分でも未熟でも大丈夫、完璧でなくても大丈夫」ということです。そして、信頼できる身近な人や大切な人たちと一緒に、また前に進んでいけばいい、という思いを込めています。今、自分に対して不満があったり、辛い状況に置かれている方には、この映画を通して少しでも力を出していただいて、笑顔で生きていってほしい、幸せになってほしいなと思います。

インタビュー・テキスト・撮影(監督写真):CulTame com編集部
映画『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』

【ストーリー】
母親を失った高校生イニョン(イ・レ)は、家賃が支払えず家から追い出されてしまい、所属しているソウル国際芸術団の練習室で隠れて寝泊まりしていた。芸術団の60周年公演に向けて猛特訓が続く中、ある日、“魔女”と呼ばれ、完璧主義で生徒達に容赦なく厳しい態度をとる芸術監督ソラ(チン・ソヨン)に練習室での生活がバレてしまい、その日からソラの家で一緒に暮らすことに。年齢も性格も生活習慣も違う二人は、お互いに戸惑いを見せながらも、同じ時間を過ごすことで徐々に心を通わせていく。そんな中、イニョンを敵対視している芸術団のエース、ナリ(チョン・スビン)の不調をきっかけにチーム内で問題が勃発。イニョンをはじめとする団員たち、そしてソラの気持ちはバラバラになってしまう。公演開催の危機に迫られた芸術団のため、ソラはある覚悟を決めるが…。
監督:キム・へヨン
出演:イ・レ、チン・ソヨン、チョン・スビン、イ・ジョンハ、ソン・ソック
提供:KDDI 配給:日活/KDDI
2023年/韓国/カラー/スコープ/5.1ch/原題:괜찮아 괜찮아 괜찮아!/英題:IT’S OKAY!/102分/字幕翻訳:根本理恵
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映画公式 X & Instagram:@daijoubu_eiga #大丈夫大丈夫大丈夫
劇場情報 https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=daijoubueiga
4月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

