
2023年の『少女都市からの呼び声』に続き、再び唐作品に挑む安田章大。ゲネプロ公開前には演出の金とともに囲み取材に応じ、作品への思いや稽古場でのエピソードを語った。
2年ぶりにタッグを組んだ金は、まず安田の仕事ぶりを「ここまですごいとは」と絶賛。舞台だけでなくテント設営にも安田自らが参加しており、「この4日間、朝から晩までずっとテントで作業している」と明かすと、報道陣からどよめきが起こった。実際に安田は客席の設営やステージの塗装にも関わったといい、「テント役者というものは、ひとつひとつ自分たちで作っていくんだということを学ばせていただきました」と語った。そして「観に来てくださった方は、『この席、安田が作ったのかも』と思いながら観てほしい」と、穏やかな笑みを浮かべた。
安田は『アリババ』では“黒い馬”を探す宿六、『愛の乞食』では生命保険会社に勤めるサラリーマン・田口と、一本足の憲兵を演じる。金はその演技を「才能のかたまり」と評し、「動きもキレッキレだし、歌もすごい。スーパーアイドルであられる」と称賛を惜しまなかった。
互いへのリスペクトは続く。安田は、演出と出演を兼ねる金について「(稽古の)最後の最後らへんに、やっと演出から手放された状態で役者として入るんですよ。金さんが芝居の中に入ってくる瞬間を見たすぎて、ツラからみんながめっちゃ見るんですよ。金さんがどんな芝居をするのかにワクワクして。お芝居の中のテンポ感とか、唐さんがいうリズムですかね。(金は)それがやっぱり染み付いてらっしゃるのか、『芝居…ん? 芝居じゃないな、何なんだ、この異様な世界観』っていうところに連れて行ってくれるのが、金さんの存在感の強さ。僕のことめっちゃ褒めてくれてますけど、褒め返してる最中です(笑)」と、尊敬の念と愛をたっぷり込めて語る。対する金も「唐十郎の詩的なセリフを一字一句間違えず、研ぎ澄まされた状態で放ってくる。歌も、これからどんどん安田君で聴きたい」と熱を込めた。
稽古場でのもうひとつのエピソードも印象深い。安田はシカやクマなどのジビエ肉を差し入れし、劇団員たちと“同じ釜の飯”を囲んだという。特にクマ肉は「肉塊をそのままお渡ししました」と話し、それを金がスライスして、安田の「塩胡椒がベスト」という助言通りに調理。稽古場でふるまわれたという。「幸せでした」と語る安田の表情からも、劇団との信頼関係がうかがえた。
若手劇団員による若衆公演にも触れ、「僕の役を演じている子がいて、違うアプローチをしていて面白いんです。チケットをお持ちでない方にも、ぜひ観てほしい」と呼びかけた。
唐十郎の初期作品をテントで上演することについて改めた問われた安田は「唐さんが喜んでくださることがまず第一」と回答。「どれだけ世間の皆様から賛否両論をもらえるかどうかというところが、唐十郎さんがいちばん喜んでくださるポイントなのかなと思っています。アイドルがアングラの世界に足を突っ込む。そうすることによってどんな科学的変化が起きて、いろんな情報がぐるぐる回り始めて、世間が賑わってくれるのか」と、アングラ演劇に挑む強い意思を滲ませた。金も「唐十郎の20代から30代にかけての作品を読み直して、僕らがもう1回唐さんの原点を探っていくーーこの第一歩が安田君で最高です!」と声を弾ませる。さらに「(本作を)40年近くずっとやってますけど、今回が最高です」と“最高”を連呼し、自信をのぞかせた。
最後に安田は、「唐十郎さんの戯曲だからこそ、そして新宿梁山泊さんのステージだからこそ、自分が発揮できる、自分の肉体を使った表現の仕方、大病を患ったのちの表現の仕方、そしてサードステージに入った、サードライフになった自分自身の生き方を投影しながら、どれだけ唐十郎さんが持っている記憶の輪っかと、僕が持っている人生の輪っかをリンクさせて、挟まった間のところの色をより濃くできるのか、そして深さを持てるのかというところをしっかりと、新宿梁山泊の皆様と一緒に作っていけたらなと思っています」と真摯に語り、「この演劇は観るのではなく、体験型と思います。ぜひお待ちしております」と結んだ。

唐十郎の戯曲が、時代を超えて今、テントという空間に呼び出された。それは懐古ではなく、現在進行形のアングラ演劇として、観る者の五感に訴えかけてくる。俳優・安田がその求心力の核となっていたことは間違いない。『アリババ』では男の哀しみや狂気、『愛の乞食』では柔らかなユーモアと冷徹さ。異なる人物を演じ分けながら、安田は唐作品の奥底にあるロマンと矛盾を肉体を通して静かに、そして激しく掘り起こす。ふと漏れる歌声には、観る者の心を揺さぶる郷愁が漂っていた。
テントという演劇空間そのものも本公演の魅力のひとつ。『愛の乞食』終盤では、テントの外から突如巨大な船が現れる。キャスト陣が船に乗り込み、観客の目前をゆっくりと後退していくラストシーンは、虚構と現実の境界を揺さぶり、観客の記憶に深く刻まれるだろう。舞台と客席が地続きとなるテント演劇ならではの臨場感と距離感が、この体験をより濃密なものにしていた。

<公演概要>
新宿梁山泊 第79回公演 唐十郎初期作品連続上演
『愛の乞食』『アリババ』
作:唐十郎
演出:金守珍
出演:
安田章大、金守珍、水嶋カンナ、藤田佳昭、二條正士、宮澤寿、柴野航輝、荒澤守、宮崎卓真、原佑宜、
寺田結美、若林美保、紅日毬子、染谷知里、諸治蘭、本間美彩、河西茉祐、芳田遥、町本絵里、森岡朋奈、
とくながのぶひこ
日時:2025年6月14日(土)~7月6日(日)
会場:新宿 花園神社境内 特設紫テント(東京都新宿区新宿5-17-3)
チケット料金(税込):
一般指定席 一般 8,000円 当日 8,500円
桟敷自由席 一般 4.500円 当日 5,000円(整理番号付き)
U25 2,500円(当日共)*身分証明書提示
※桟敷自由席は整理番号付き
※U25チケットは、ご観劇時25歳以下対象/当日引換券販売(一般販売からの取り扱い)/公演当日要身分証明書
※未就学児の入場はお断りしております。
前売り販売開始:5月3日(土・祝)10:00〜
チケット取り扱い:
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/s-ryozanpaku/
公演に関するお問合せ:shinjukryozanpak@cultamecom
チケットに関するお問合せ:stage.contact55@gmail.com
公式サイト:http://www.s-ryozanpaku.com
公式X:https://x.com/SRyozanpaku
主催/一般社団法人新宿梁山泊